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大阪家庭裁判所 昭和38年(家)150号 審判 1963年3月20日

申立人 矢野春子(仮名)

相手方 矢野一男(仮名)

主文

一  相手方は申立人に対し、昭和三八年六月三〇日限り金一三万円を申立人住所に持参又は送金して、その支払をせ。よ

二  相手方は申立人に対し、双方間の四名の子の生活費として昭和三八年三月から同三九年三月まで一ヵ月金二万円昭和三九年四月から同四三年三月まで一ヵ月金一万五、〇〇〇円を毎月末日限り申立人住所に持参又は送金してその支払をせよ。

三  上記第二項の生活費支払義務は、その定める終期にかかわらず、相手方が同居して四名の子を養育した時をもつて終了する。

理由

本件申立理由の要旨はつぎのとおりである。

申立人と相手方とは、その間に三女一男をもうけたが、かねて夫婦間に円満を欠き昭和三七年一月末日協議離婚のことを話し合つたが、四名の子の監護養育費などについて協議がととのわなかつたので離婚するに至らなかつた。ところで相手方はその頃一方的に「離婚するが、住所や職業がきまり次第通知し子女の養育費については善処する」旨を言い残して、四名の子の監護養育の責務を挙げて申立人に押し付けて家を出て了い、それ以後現在まで、住所についてはもとよりなんらの連絡通知もなくまた養育費の仕送りも全然していない。申立人は現在化粧品の外交販売を業としているが、その収入だけでは四名の子女をとうてい養育できないし、従前からの負債の支払いもできず、生活は苦しく困第しているので、婚姻費用として昭和三七年二月以降金二万円か少くとも一万五、〇〇〇円を相手方に分担してもらい、かつ過去の分については負債の弁済に充てたいので相手方から一括支払を希望する。

よつて審案するに調査の結果によると、次の実情が認められる。

一  申立人と相手方とは、昭和一九年一二月一一日婚姻しその間に長女律子(昭和二〇年一〇月五日生)、二女幸子(同二二年八月二四日生)三女道子(同二四年一二月一三日生)、長男信一(同二七年一一月二二日生)の四子をもうけた。近年相手方の業務が旨くいかなかつたことや飲酒が過ぎたことまた双方の性格乃至生活感情の相異などに基因して夫婦の間に風波を生じるようになり、かくて昭和三七年一月下旬には、双方の関係は夫婦別れをとり決めるほどに破綻していたところ、子の監護養育費の負担等のことについて協議がととのわなかつたので離婚するに至らなかつたが、相手方は自ら署名捺印した離婚届書を申立人に手渡し「自分は離婚するつもりである。子供の養育費は仕事や住所が落ちつけば仕送りする」旨を言い残して、子の養育等について父親として具体的になんら配慮することなく、また行き先きも告げないで、上記四名の子女の養育を挙げて申立人に委ねて家を出たものである。

二  申立人は、約一年前からシャンソン化粧品の外交販売に従事して月収約三万円乃至三万五、〇〇〇円を得ているが、従前約一〇年間ポーラ化粧品の外交販売をしていた頃の負債約一〇〇万円(仕事の不慣れや店員の使い込みや売上金の生活費への流用などによつて背負うに至つたもの)の返済に毎月元金一万円と相当額の利息を充てなければならず、これを差し引くと、申立人と四名の子の生活費には二万円程度しかふり向けられない。ところで申立人と四名の子の生活費としては、長女(高校二年)、二女(中学三年)、三女(中学一年)、長男(小学四年)の教育に欠くことのできない学資を含めると、約四万円を必要とするので、毎月一万五、〇〇〇円乃至二万円程度が不足する状況である。そこでこの不足する生活費等を補足するために、毎月の外交販売による売上金を生活費に流用したり、他から借財し、また長女はアルバイトをして商店に勤め毎月八、〇〇〇円程度の収入を得ており、二女、三女も学校の体暇中にはアルバイトに従事しているような実情である。

なお申立人は、これまでの婚姻生活の実情から考えて、相手方が望んでも同居する気持はなく、従つて自己の生活費についてまで相手方に依存する積りはないが、四名の子の生活費については毎月二万円少くとも一万五、〇〇〇円以上の負担と、過去の養育費については負債の支払いにあてたいので一括支払を希望している。申立人の負債としては、現在のところ上記負債の残額約三〇万円の外、その後の売上金の生活費への流用によるもの約三〇万円があり、その弁済のため必要あつて申立人は二月二〇日頃から夜間アルバイトとしてバーに勤めるに至つたものである。

三  相手方は、家を出てから既に一年有余になるのに、上記のような離別の経緯、約束にもかかわらず、申立人にはもとより子どもらにも便りをせず、また申立人から本件調停の申立や手紙などによつて、直接或は間接に屡々生活費分担の申出を受け、申立人らの窮境については知悉していながら、家を出て後現在に至るまで生活費の仕送りを全然していない。

本件調停手続においても、相手方は調停には制裁を受けても出頭しない旨を放言し、現に昭和三七年八月一日の第一回期日から同三八年一月一六日の第一六回期日までの間に僅かに一回、それも当庁調査官から出頭勧告を受けてやつと同三七年一一月一〇日に出頭しただけで、その際も、夫婦親子同居すべきことは分つているがこの一〇月定職についたばかりの自分の収入で生活可能かどうか申立人に聞いてもらいたい旨を陳述するのみで、家庭の再建子の養育などについて積極的な誠意ある態度を示さず、その後もまた調停に欠席を続け、調停不調となり審判に移行して後も再度の呼出しを受けながら不出頭を重ねた。(相手方の度重なる不出頭は全く理由がないと認められるので、当裁判所は過料の制裁を考慮したのであるが、申立人の希望もあり、また何よりも生活費の仕送りを早急かつ確実にさせるのが相当と認められる本件事案に鑑み、これを差し控えたものである。)

四  相手方は、昨三七年九月一三日頃から駒井鉄工所に嘱託として就職し、当裁判所が同鉄工所につき調査した結果によると、

昭和三七年一〇、一一、一二月の平均月収額四万九、一四四円

同   年一二月賞与額 一万円

同 三八年 一月    四万二、三三二円

同     二月    三万九、八二三円

の俸給月額を受けている外、扶養家族として申立人及び四名の子があり、但し入社後六箇月未満のため扶養手当を支給されていないが、六箇月経過後は毎月一、八〇〇円支給される筈である。

相手方はこのように俸給を得ておりながら上記のとおり養育費の仕送りをせず全収入を挙げて自己一人の生活に充てているものである。

さて以上に認定した実情によつて本件申立について考究するに、申立人と相手方とはいまなお法律上夫婦であり、その婚姻関係が実質的に破綻しているにしても、破綻を招いた責任が申立人だけでなく多分に相手方にも存するものと認められ、しかも相手方が四名の子の監護養育の責務や経済的負担を挙げて申立人に帰せしめてこれを捨てて顧りみなかつたことは、夫としてまた父親としての責務に著しく違背するものというべきであるから、相手方に、夫及び父親として申立人及び四名の子の生活費を分担し婚姻家族共同生活を維持すべき義務あること明らかである。よつてその程度方法について考えるに、双方の婚姻関係の実情、殊に申立人の同居についての考えや、申立人自身の生活費については申立人においても必ずしも相手方の分担を希望していないことからみて、申立人自身の生活費を除外するとしても、四名の子の生活については、双方の収入生活状況殊に四名の子が高校生以下の生徒であること(しかもそのうち三名がなお義務教育の過程にあることについて、特に相手方の注意と責任感を喚起したい)その他本件に現われた一切の事情からみて、四名の子の生活費として、双方が別居した直後である昨三七年二月から長女が高校卒業するまで毎月二万円同人が高校卒業後は長男が義務教育を終了するまで毎月一万五、〇〇〇円を相手方に分担させ、その余の生活費用や監護の責務を申立人に負担させるのが相当である。もつとも親と未成熟の子とは同居して共同生活を送るのが自然で望ましいことであるから、関係当事者にこのことを期待し、上記生活費分担の定めについては、その支払義務の終期にかかわらず相手方が四名の子と同居して養育するに至つたとき、そのときをもつて終了するものと定める。なお過去の生活費の分担については、過去の扶養費などと同じように請求を受けて以後の分しか支払を求め得ない、とする見解もあるが、本件のようにいわゆる生活保持義務に属する父親と未成熟子との養育費に関し、しかも父親において別居当時子が要養育状態にあることを明らかに知つている場合においては、請求前である別居当時からの養育費を父親に負担させるのが相当であるから、本件では昨年二月以降の分を相手方に分担させ、しかもすでに支払期を経過している金額金二六万円(昨三七年二月から本年二月まで毎月二万円の合計)について直ちにその支払を命じて当然であるが、上記認定の双方の生活状況、殊に相手方の収入勤務時期からみて預貯金などあるとも思われない事情にてらし全額即時支払が困難であることもうかがわれるので、上記二六万円については、さし当つてその半額一三万円を相手方に負担させ、これを本年六月末日に支払わせるのが相当である。

よつて主文のとおり審判する。

(家事審判官 西尾太郎)

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